2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

水底金波銀波2 2. 森中から巨大魚

紅葉様だ。道の中を白い筋が一直線に走るのが見える。そう……婆の目にはありありと映る。紅葉様だ。森の闇がスパリと切れる。 水に跳ねた音が散って眼前に光った。岩と岩を通り過ぎて覗き込んだ光がいつまでも焼き付くように、チリチリと―――熱気を浴びる。 道…

水底金波銀波2 1.冒頭

水底金波銀波 小林千三 何でも、暗い上り道を歩いていた。匂いの無い風が吹く、遠い夜空の辺がどこか薄青く見える、一人きりの夜道だった。目と鼻の近くにははっきり闇がある。先刻通ってきた山の小道から落ちる脇にあった小さなお堂か社か、木製の古びた屋…